北朝鮮はどうなるのだろうか?
北朝鮮の核実験実施以来国連で制裁決議が可決され、北朝鮮情勢が慌ただしく動いている。ライス長官も日本、韓国、中国、ロシアと精力的に協議を重ねている。北朝鮮包囲網が完成され、今にも金正日政権が崩壊しそうな観測も見受けられるが、そこまで追い込もうと考えている国はあるのだろうか?核開発を放棄させることにはどの国も異論がない。それを実現させるための包囲網だと私は見ている。問題は北朝鮮のアメリカから攻撃されるとの恐怖感をどうやって取り除くかにあると思っている。北朝鮮のこれまでの傍若無人さからアメリカの攻撃に対する恐怖感を過小評価してきたきらいがあるが、彼らの恐怖感を取り除くこと無しに核開発を放棄させることは出来ないのではないか。この点は現在のブッシュ政権も十分認識している様に感じる。
北朝鮮の恐怖感を信じない人には平壌の地下鉄を思い出して欲しい。平壌の地下鉄は地下100メートルものところを走っている。日本のように道路のすぐ下を走っているなどと言うことはない。学生時代に札幌の地下鉄工事のアルバイトをしたことがあるが鉄板をめくると巨大な溝が走っている、それが日本の地下鉄だが、平壌の地下鉄は核攻撃に備えた核シェルターだと言われている。アメリカから攻撃される事を真剣に考えている証なのだ。自国内では盛んにアメリカから攻撃される危険性を煽っているが、これは金正日政権の保身のための宣伝だけと考えるのも間違っているのではないか。日本人は冷戦時代にも余り核攻撃を受ける危険性のことを真剣に考えてこなかったきらいがあるが、アメリカもソ連も中国だってシェルターづくりに真剣に取り組んだ過去があり、朝鮮戦争後休戦状態のままの北朝鮮が経済ボロボロで国民を餓死させてなすすべもない政権がアメリカに恐怖を感じても何の不思議もない。ましてイラクのサダムの運命を目の当たりにしているのだから。
イラクの場合、サダム政権はアメリカ地上軍が侵攻してくるとは信じていなかったようで、バグダット突入直前まで大洞を吹いていた。サダムはアメリカ地上軍が攻撃してくることを信じていなかったが、逆に北朝鮮は侵攻されると信じ込んでいる。この事が北朝鮮の事態をややこしくしているように思う。先日は中川昭一政調会長が「日本も核をもてる」との発言をして物議を醸しているが、金正日の恐怖感を裏付けるばかりで核開発放棄を迫る国際的な戦略配置を台無しにしかねない愚かな発言だと思う。国際的な包囲網の目的は北朝鮮に核開発を放棄させることとであり、その為に必要なことは金正日政権を安心させることである。もっともその前に崩壊してしまうこともあり得ないことではないが数十万、数百万の難民でも発生したら韓国、中国、そして日本の負担はどれ程の物になるだろうか? 2005年の難民受入数はアメリカやフランスが2万人程度なのに日本は46人しか受け入れていない。安倍総理がまともな政治家ならば自身の好悪に逆らってでも、政権の崩壊は避けるべきと考えて行動するのではないだろうか。
結局のところアメリカは北朝鮮をどうしたいと思っているのか?私の想像では、イラクが泥沼化する以前は北朝鮮を民主化しよう(=金正日政権を倒そう)と思っていたが、現在は日本と韓国をアメリカの核の傘の下に囲い込むのと同時に、北朝鮮を中国(+ロシア)の核の傘の下に囲い込むことによって軍事的な均衡を作り出して北朝鮮の核を放棄させようとしているものと想像している。勿論、現在の日本の政治家達の多くがアメリカの核の傘の下に喜んで入れてもらうという選択をしているようには金正日政権が中国の庇護下に入りたいと思っているとは思わないが、この選択以外に政権の存続は適わないだろう。だから、中国の庇護下に入る選択をして生き延びるのかそれとも滅びるのかの選択以外には残されていない。
中朝国境の中国側にフェンス(鉄条網)が設けられたのは北朝鮮政権の崩壊に備えている印なのか?そうも考えられるが、私は交渉が思わしく進まない場合に中国が経済封鎖をするという意思を見せつけているのだと思っている。最近はブッシュ大統領も、「核技術移転の動きがあった場合に軍事行動を起こすか?」と言う質問に対して明確に軍事行動を起こすとの発言はしなかった。これなども軍事行動への言及自体が北朝鮮政府内に恐怖を引き起こし中国の行動を台無しにしかねないことに配慮したものと私には思える。現在アメリカが追求しているのは、中国のコントロール下に北朝鮮を封じ込める事だと思う。
ライス国務長官が来日して「アメリカは日本を守る!」と強調して見せたし、韓国では「攻撃を受けた場合は韓国を守る」と強調した。当然中川昭一政調会長の「日本も核をもてる」との発言も意識しているものと思うが、アメリカや中国が現在、何を国益に適うと考えているのかと言えば、「アメリカの核の傘の下の日本と韓国」であり「中国の核の傘の下の北朝鮮」と言うことになる。私は対米従属として自民党政権を批判してきたが、自衛隊を増強して日米安保体制から離れる日本の姿をアメリカは望んでいない。アジア地域は中国とアメリカが強調して安定させることがアメリカの利益になると言うことだろう。そして本心は「中東に力を集中したい」というところだろう。
では、拉致問題はどうやって動かすのか?中国の核の傘の下に入り、アメリカが安全を保証したとしたら金正日政権としては攻撃されるという強迫観念から逃れられるかも知れない。その時には拉致した人達を手放す契機になり得る。拉致された人達は拉致を認めた国家にとっては重荷以外の何物でもないように思われるが、人質という側面も持つ。強盗犯の人質と同じように、自分たちの安全を担保するものになると言うこと。だから、別の形で安全が担保されると信じるならば手放す可能性は高まると思う。日本人としては人質を取った強盗を逃がしてやるのと同様の割り切れない感情を持つかも知れないが、政権自体が瓦解するような中で解決するよりは危険の少ない解決方法だと思う。 拉致問題で国民の感情が収まって初めて平壌宣言を実行に移す前提が得られる。
核放棄後は中国の庇護下で新義州や開城の経済特区をテコにして経済発展を図るというプログラムに多分戻るだろう。今度は2002年の小泉訪朝の時と違ってアメリカも日本の経済援助を本心で許容するだろう。いや、それを望むだろう。
ここで平壌宣言当時のことを振り返ってみたい。
私が尊敬するKさんは平壌宣言を本当に喜んだものです。「拉致された人も帰ってくるし、これで北朝鮮人民も救われる。彼らは日本の植民地で苦労し、解放されたと思ったら朝鮮戦争、その後も独裁政権の下で何一つ良いことのない暮らしだった。」と、語った言葉が忘れられない。 拉致家族を北朝鮮に戻さなかった時も「何故、一時返すと言うことに反対するのか分からない。返したらそれまでだと言うが、国際社会注視の中でそんな非道なことを、如何に北朝鮮政府でも出来るわけがない。」と怒っていた。この辺りは日本では評判の悪い考え方だとは思うが、小泉総理の2度目の訪朝が無くても、このときに子供達が返された可能性もないとは言えない。「盗人に追銭」みたいで日本人としては腹が立つが、金正日の寛大さを演出させて、一気に国交回復、経済援助へと進む可能性もあった。この辺が北朝鮮としてはもっとも好ましい筋書きではなかったか。当時の北朝鮮には拉致家族を留めて交渉をぶち壊すメリットは何もないと思う。だからこそ、あの金正日も恥を忍んで拉致を認めたのだ。
「自分が命令したにもかかわらず工作機関の責任にしたのは卑怯だ!」と、怒るかもしれないが国家とはそんな物だ。あくまでシラを切り通すのが本来ではないか。日本が強制連行も、従軍慰安婦も、731部隊の行為も、山西省残留兵も認めないことを考えれば分かる。国家が認めるという事自体がそれ程大変なことだと思い至れば、金正日の決断の大きさと、北朝鮮の置かれていた状態の厳しさとの想像がつくと思う。私も日本外務省と田中均審議官達を随分悪く言ってきたが、戦後処理と拉致問題解決を総合的に解決するとしてここまでの枠組みをお膳立てしたことは再評価されてしかるべきだと思う。小泉総理も相当な決意を持って臨んだことは間違いがないが、読み違えていたのはアメリカの真意の方だったのではないか。
ブッシュ大統領はこの年(2002年)の1月に一般教書演説でイラン、イラク、北朝鮮を名指しで「悪の枢軸」と非難している。アメリカは当時唯一の超大国として何でも出来ると思い上がっていた。世界中の気にくわない政権を倒し「民主主義」をもたらすと舞い上がっていた時期になる。公式には「首相の訪朝が、日朝二国間の問題の早期解決に至り、北朝鮮が国際社会の責任ある一員になることに貢献するよう期待する」と評価して見せたが、本心は「米国は北朝鮮が関わる問題に関して日本と懸念を共有しており、それらの扱いについて日本政府と引き続き、緊密に協議を続けることを期待している」と、やんわりと反対の意を滲ませている。表向きは穏やかだが裏ではどんな激しい意向(指令)が日本政府に示されていたかは永久に表に出ないかも知れないが、「対テロ戦争を続けている米国が最も重視するのは、大量破壊兵器・ミサイル問題であり、巨額の資金が北朝鮮政府に渡ることには断固反対する」という物だった事は間違いないと想像している。このブッシュ政権の方針に反してまで中国や韓国と歩調を合わせて北朝鮮を助ける事は日本が対米追従から抜け出す意志があり、アジアでアメリカに代わってリーダーシップをとる意思ありと疑われることにすらなった。絶対に経済援助は認められないというのがブッシュ政権の方針であり、日本がアメリカから独立して歩んでいくという決心を固められない限り平壌宣言は実行に移す道を閉ざされていたと言わなければならない。
例え死亡したとされる人達の問題が残されたとしても、生存していると公表された人達と家族全員が帰されたならば国交回復、経済援助に交渉は進まざるを得ない。このような中で、一時帰国とされた5人を北朝鮮に戻すか戻さないかの議論が行われた。「戻したら二度と戻ってこない恐れがある」から帰さないのではなく、交渉を前に進めないために帰さないという決定がなされたのではないかと思う。この後小泉総理は自主外交を諦め対米追従への道を強めるのもこのときのアメリカの姿勢が如何に強かったかの証ではなかったかと想像している。
韓国は朴正凞軍事独裁政権から民主主義になったし、台湾も蒋介石独裁政権から民主主義になったように、北朝鮮も民主的な政体に移行することが不可能とは断言できない。現在は緊張が極度に高まっている時期ではありますが、「万事塞翁が馬」で、今度こそ北朝鮮人民にとっても良い結果がもたらされることを祈りたい。
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